ジャイアントの名作クロスバイク「エスケープR3」。純正でも勿論良い自転車ですが、よくカスタムベースとされる自転車でもあります。
この記事では、8年間乗っている筆者のエスケープR3のカスタムについて、紹介します。
目次
はじめに:筆者とエスケープR3
筆者にとってエスケープR3は、ひとことでいえば「5万円で世界が変わった」乗り物です。
大学一年生だった頃の筆者が、はじめたばかりのアルバイトの初任給と、なけなしの貯金を崩して買ったのがエスケープR3です。
この自転車の購入を以て、筆者はスポーツ自転車の世界に飛び込みました。
筆者にとってスポーツ自転車を手にしたモチベーションのひとつが、「大学があった東京から実家のある仙台まで自転車で走ってみたい」だったのですが、このエスケープR3で、東京から仙台まで1日で走りました(大学2年生、大学3年生の2回実施)。
ヒルクライムという世界を知ってからは、エスケープR3で沢山の峠にも行きました。
富士あざみライン、スバルライン、箱根、ヤビツ、そして日光いろは坂、奥多摩周遊道路、和田峠など。
今では専らローラー台に据付ですが、筆者にとってエスケープR3は大学時代の思い出そのものの、まさに「相棒」といえる自転車です。
エスケープR3のカスタム①カスタムの方向性
筆者のエスケープR3は、いわゆる「ドロハンクロス」です。
始めた当初は2台めを購入するという発想はありませんでしたが、長距離を走るならドロップハンドルが良いという声を信じて、購入から半年も経たないうちにドロップハンドル化しました。
筆者にとっては「ハイブリッドバイク」というクロスバイクの異名を生かした自転車にしたい、という心持ちでエスケープR3をカスタムしています。
単にドロップハンドルにして細いタイヤを着けてもロードバイクには運動性能では敵わないので、ロードバイクではできないことをやれる自転車にしたい、という趣旨です。
そんな趣旨に基づいた、筆者のエスケープR3のカスタムコンセプトは、「太いタイヤで乗り心地快適、整備性がよくて制動力が高いミニVブレーキで疲れない、ドロップハンドルで荒れた道を含むロングライドをストレスフリーに楽しめる自転車」です。
エスケープR3のカスタム②フレーム・フォーク
フレームは、2015年モデルのエスケープR3です。
それまでのモデルより一気に軽量化されて、定価5万円ちょっとで完成車10.2kgというスペックを引っさげて市場に登場し、好評を博したモデルです。
フォークは、純正クロモリフォーク。単体で1kg程の非常に重いフォークですが、軽量化が目的でカスタムしている訳ではなかったので、交換したいと考えたことは一度もなく。
走行性能重視でカスタムする方だと、カーボンフォークに交換している例も散見されます。
ドロップハンドルでSTIレバーを使う場合、純正フォークだとSHIMANO公式OKの互換で対応するのがカンチブレーキのみになってしまいますが、フォークを交換してしまえばキャリパーブレーキを使えるため、STIレバーをSHIMANO互換に反することなく使えるのもフォーク交換の利点ではあります。
エスケープR3のカスタム③ハンドルまわり
ハンドルは、「リッチー ネオクラシック」幅400mmです。
リーチ・ドロップともコンパクトですが、下ハンドルはしっかり丸ハンドルの形状でブレーキレバーまでの距離が近く、安心して下ハンドルを握れる使い勝手の良いハンドルです。
昔ながらのシャローハンドルのように、ブラケットがハンドルの肩から大きく下がったりもしません。極めてナチュラルにブラケットを握れます。
ステムは間に合わせのキャノンデールC4。
レバーは、SHIMANO ST3400です。6年前に9速化した際、中古を探してきました。
形状としては7700世代のそれであり、現行SORAからは2世代遡る最早骨董品のようなレバーですが、握りは細く手に馴染む形状で使いやすいです。
握り自体は5800の105より細く感じられるほどです。
触覚ワイヤーのため、シフト操作も重さは現行のシフトレバーとそれほど変わりません。
今はなき親指シフトですが、カンパニョーロのそれとは雲泥の差であるものの、優劣と言うよりは「これはこれで楽しい」機材です。
下ハンドルからのレバー操作は少しコツを要しますが、手首を少しひねれば出来ないことはありません(多少無理はあります)。
エスケープR3のカスタム④サドルまわり
シートポストは、純正です。Φ27.2mmのごくオーソドックスなポストゆえ交換しようと思えばいつでも交換できましたが、別段不満を感じたこともなかったため、そのまま。
色合いで言えば、黒いシートポストに変更すると全体のルックスは引き締まるのかな、とは思います。
サドルは、SELLE ITALIA SP-01 BOOSTです。会陰部への負担の少なさを期待し、見た目に惹かれたのもあって選びました。
エスケープR3のカスタム⑤ドライブトレイン・ペダル
ドライブトレインは、3400系SORAをベースに、一部を3500系にしています。
ドライブトレイン・フロント
FDは「FD-3400」。流石に5800や9000等のFDと比べてしまうと引きは重いですが、必要十分に稼働します。
クランクは、「FC-3400 170mm」です。170mmを選んでいるのは、9速化した頃は未だクランク長への知見がなく、純正で付いていたクランクと同じ長さを選んだためです。
ダンシングを使うなら筆者の身長(186cm)的にはもう少し長いほうがよいのですが、使えないわけではないので、そのまま使っています。
チェーンリングは「46-34T」です。インナーはFC-3400に付いてきた34Tをそのまま使用していますが、アウターは50Tも要らないと考えたため、FC-3450の46Tを入れてダウンサイズしています。
ロングライドであれば40km/hも出せれば十分過ぎるほどなので、このサイズでも不満を感じません。
むしろ、フロントをダウンサイズすることで、上から下までスプロケットをまんべんなく使えるようになります。
フロント変速の面でも、歯数差が小さくなるため、スムーズにアウターに上がるようになります。実際、50-34Tの5800系105と変速のスムーズさでは大差を感じないほどです。
BBは、ホローテック2のクランクと、フレームのJIS68mmスレッドの両規格に合わせて、SM-BBR60。長らく6700系のBBを使っていましたが、1年程前に交換しました。
ペダル
ペダルは、SPDペダルです。ロングライドやグラベルも行きたいときに行ける自転車にしたいという考えだったので、SPD−SLではなくSPDを選びました。
両面固定でストレスフリーに着脱でき、SPD-SLほど固定が固くないので足首も疲れにくく、ロングライドにSPDは最適だと感じます。歩きやすさや、クリートの経済性も段違いです。
勿論純粋な走行性能はSPD-SLにかないませんが、競技レベルの走行が出来ないというわけでもありません。筆者の初レースはSPDペダルを着けた自転車によるものでしたが、小さい大会ながら一応、入賞しています。
このSPDペダルは、2代目です。固定調節ボルトを最大まで締めたつもりが限界を超えて締めてしまっていたらしく、立て続けに両足ともペダルがハマらなくなったため、交換したものです。
ドライブトレイン・リア
RDは、「RD-3500」。
スプロケットは「14-25T」を選択しています。これこそが、9速を選択した理由です。ジュニアスプロケットの設定があるのは、9速以上のみだからです。
14-25Tの歯数構成は、14-15-16-17-18-19-21-23-25という、11速12-25Tから上2枚を取り払ったものです。
9枚をフルに活用できて、変化する勾配に合わせて細かく変速をこなせるとてもストレスフリーなスプロケットです。
そのクロスレシオさから、速度の乗りに応じてシルキーにシフトアップしていくような「変速する楽しさ」を味わえるスプロケットでもあります。
インナーローは34-25となります。筆者が自転車を始めた頃だとごく普通のギア比でしたが、今では28Tや30T以上がデフォになっているので、相対的に重めでしょうか。
当の筆者もヒルクライムではエスケープR3より断然軽い異自転車に乗りながらロー28Tや34Tを使うようになっていますが、速く登ることを目指すならともかく、25Tでも登るだけなら登れないことはありません(平日の練習は、今でもインナーロー34-25Tの10kgのCAAD OPTIMOです。)。
むしろ、どう登れば登るのかを考える練習になっていたなと、今では思います。その頃に培った経験は、確実に今に生きています。
エスケープR3のカスタム⑥ホイールまわり
ホイールは、「SHIMANO RS100」です。
長らく純正のスピンフォースライトを使っていましたが、度重なるスポーク折れに悩まされ、GIOS AEROLITEの純正として付いてきたRS100と交換しました。
ホイール単体としては、所謂鉄下駄に近い部類だと思います。
剛性は低く、多いスポークは大きな空気抵抗を生み、転がりが特段軽いわけではない、そんなホイールです。
流石に天下のSHIMANOなので、70点で全て抑えられているというか、突出した性能はないものの、取り敢えずはしっかりまともには走ってくれるホイールではあります。
タイヤは、「PANARACER GRAVELKING SK 32c」です。以前は28cを使っていましたが、28cの寿命に伴ってブロックパターン入りのSKの、32cに交換してみました。
ビターっとゴムがへばりつくようなタイヤで、走行抵抗は一気に上がったような感がありますが、空気圧を高めにすれば最低限転がります。
振動吸収性は一気に高まり、ブロックパターンだけあって走破性も高いです。ダンプが作ったような轍を踏んでいっても過度にガタついたり、ハンドルを取られてヒヤッとしたりしません。
このタイヤに変えてから岩手の北上まで150km程のライドをしましたが、安心感高く走れるタイヤだなという印象です。
ただ、タイヤのグリップが高くなるためか、ミニVブレーキは取り敢えず付いてこれているものの、フォークが制動の際に多少負けているような感はあります。ビビったりはしませんので、実用上の問題はありませんが…。
エスケープR3のカスタム⑦ブレーキ
ブレーキが一番のネック
エスケープR3をドロップ化する際に一番のネックとなるのが、ブレーキだと思います。
というのは、SHIMANOのSTIレバーはキャリパーブレーキとカンチブレーキにしか互換性を持っておらず、Vブレーキには非互換だからです。
解決策としては
・カンチブレーキを使う
・(前輪だけしかできないですが)フォークを差し替えてキャリパーブレーキを使う
・Vブレーキローラー等の引き量を変える装置を組み込む
・アームレングスが短いミニVブレーキを使う
等がありますが、筆者は末尾の「ミニVブレーキを使う」を採っています。
ミニVブレーキ
ミニVブレーキは、通常のVブレーキに比べてアームの長さが短いことから、ワイヤー巻取量が少ないSTIレバーでも動作させることができます。
エスケープR3についてくるテクトロRX1もミニVブレーキの一種なので、そのまま動かすことも可能です
(ただ、物理的に可能であるというだけで、SHIMANO側では想定していない組み合わせです。とはいえ、他ならぬGIANT自身がST-R2000とテクトロRX1を組み合わせた「エスケープRドロップ」を発売しているのですが…)。
筆者も3年ほど、STIレバーと純正のテクトロRX1の組み合わせで使用していました。
ホイールのフレが大きくなると擦るくらいにセットして、ワイヤーアジャスターをかませてホイール着脱時のブレーキ開放をできるようにすることで、一応必要十分な運用はできていました。
TRP CX8.4
しかし、実運用上問題がなくとも、「公式に互換がない」という状態で使っているのがどこか心残りではありました。そのため、「TRP CX8.4」を導入しました。
TRPはテクトロのレーシングブランドです。テクトロのブレーキには様々な評判がありますが、TRPは流石にハイエンドだけあって、(少なくとも筆者使用のCX8.4は)高品質な造りです。
TRP CX8.4は、TRPが公式に、78系以前のSHIMANO(スーパーSLR規格のブレーキ)及びカンパ・スラムとの互換がある旨アナウンスしているブレーキです。なお、79世代以降(新スーパーSLR規格のブレーキレバー)のSHIMANOレバーに対応したものとして、TRP CX9.0という製品も販売されています。
筆者のST-3400はブレーキワイヤー引き量については78以前の世代同様のスーパーSLR規格なので、TRP CX8.4を選択しました。
・ブレーキシューをアームの極力上側に取り付けつつ斜め下を向けさせることで稼働を大きくする
・アウターワイヤーを最小限の長さに抑えて遊びを極力なくす
・左前ブレーキにしてワイヤリングの無駄をなくす
…といった注意を払いながらのセッティングを行った結果、仮に多少ホイールが振れてもシュータッチしないであろうという程度のクリアランス(ワイヤーアジャスター無しでブレーキを開放してホイールを外せます)を確保しつつ、ブレーキレバーを全力で引いてもハンドルまでの距離の1/2程度レバーが稼働したところで引ききるような状態になっています。
また、テクトロCX1の頃と比べてシュータッチはかなりかっちりとしました。剛性感も段違いに高く、これが良いブレーキかと瞠目させられます。
引きの軽さでは他バイクに組み付けの9000DAや5800の105などと比較すると多少重いですが、慣れの範疇です。
さいごに
エスケープR3をカスタムしても、限界があるのは事実です。
大掛かりなカスタムを行う場合、コストを考えれば、新車を買った方が安い場合も多々あります。実際、筆者のエスケープR3をカスタムするのにかかっているお金は、上記の仕様にたどり着くまでの回り道を含めれば、エスケープR3自体の価格を大きく上回っています。
しかし、カスタムすることで愛着が湧くのは事実ですし、自転車の構造に関する理解を深める事にも繋がります。悪いことばかりではありません。
そんな点を考慮しつつ、自分のエスケープR3をどのようにカスタムしていくか…を考えるのも、趣味の楽しさの一環だと思います。
▲最終形、現在の仕様